第10回 西谷国登ヴァイオリンリサイタル Special Ver.

西谷国登さんの第10回ヴァイオリンリサイタルだった。

2年前の5月に予定していた公演が新型コロナ感染拡大の影響で中止となり、自身のリサイタルは前回2018年から実に4年ぶりの実施となる。
国登さんの「同じものをやるのではなく、バージョンアップしたい」という性格からか、2年前に予定していた曲目ではなく、今回のために新たに組み直したプログラムで開催された。

そのプログラムは
ブルッフ『ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調』(弦楽オーケストラ版)
サン=サーンス『ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調』(弦楽オーケストラ版)
フランク『ヴァイオリン・ソナタ イ長調』

「メインの曲目として1曲ヴァイオリン協奏曲を弾く」というのが一般の演奏会なのにそれを2曲続けて弾き、その後ヴァイオリン・ソナタという、メインディッシュ3つ、あるいは某テーマパークに例えれば、マウンテン系含む180分待ちのアトラクション3連続みたいなラインナップ。
聴いているほうは単純に楽しめばよいが、協奏曲のソロを2曲やり、そのあとソナタを弾くというのは、普通ではありえないプログラミングだ(いや、やはり聴くほうもエネルギーが必要かもしれない)。

本来はフルオーケストラの楽譜である協奏曲2曲とも、弦楽オーケストラ用に西谷さんが自らアレンジして、その曲のソリストをしながら、オケの指揮も同時に振るという、とてつもない荒業にチャレンジしている。
果たしてそんな荒業が可能なのか、というと、これが本当に素晴らしい出来なので恐れ入る。
ソリストとして最後まで集中を切らさないエネルギーもさることながら、指揮も片手間で「フリ」をしているのではなく、きちんと振って曲に色を付ける。

そしてこの弦楽オーケストラ版のアレンジがすごい。
初めからこういう譜面が書かれていたかのような完成度。実際に譜面を見たわけでも(ましてや読めるわけでも)ないが、全弦楽器が合わさったものを聴くと、全ての楽器が共鳴しているように聴こえた。
ソリストに対して伴奏に徹するのではなく、オケとして聴かせどころを作ったアレンジで、普段、オーケストラの音楽監督をしている西谷さんの能力が遺憾なく発揮されたように思う。
オケとのフレーズの受け渡しやフィンガリングの共演など、随所に掛け合いを取り入れて弦楽曲の面白さ、技術の高さを感じさせた。

そして、それをきっちり音楽に昇華させるオーケストラのメンバーも圧巻。
コンサートマスター伊東佑樹さんをはじめ全員、1音1音がなぜ譜面のその場所に書かれているのか、西谷さんの意図をきちんと理解して弾いている様子が見事だった(そして何より皆さん楽しそうに弾いていた)。

濃厚で迫力のあるヴァイオリン協奏曲2曲のあとは、休憩をはさんで、ピアニスト新納洋介さんとのフランクのヴァイオリン・ソナタ。
二人でCDレコーディングしている経験や、すでに演奏会でも共演しているので、お互いをよく知っていることもあり、聴く方も安心して曲に浸ることができる。その中でも阿吽の呼吸で「遊び」を取り入れ、この日、この瞬間にしか聴けないフランクのヴァイオリン・ソナタで楽しませてくれた。

アンコールの『チャールダッシュ』では、「こんなチャールダッシュあるの?」と思えるほどの自由かつ楽しい演奏を披露され、一流の音楽家の共演を鑑賞することができたことを嬉しく感じた。

 

前半は、代名詞でもある「ヴァイオリニスト兼指揮者」としての総合的な音楽の素晴らしさを表現し、後半は新納さんのピアノを信じて、思う存分楽しみ、楽しませる演奏。まさに「西谷国登リサイタル」という名にふさわしい、他の演奏家では実現できないステージだった。

それをこなせたのは、4年間思うように演奏会ができなかった月日の中で培った、「お客様を楽しませたい、西谷国登の表現する世界を存分に感じてもらいたい」というアーティストとしての覚悟なのかもしれない。
彼にしかできない舞台を作り上げ、唯一無二の境地に至ったとすれば延期の2年は無駄ではなかったろう。

そして、その余韻に浸る間もなく、来年の9月23日にはすでに次回のリサイタルが予定されている。自分の演奏を楽しみに来る方々に期待以上のパフォーマンスを披露し、それでいて、また新たな境地を見せるくれるに違いない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です