『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』

雑誌の映画評で見て、劇場で観たいと思いつつ、行けなかった映画。

主人公は40代ぐらいの中年男で、犯罪組織の末端としてその日暮らしをしている。
主人公の日々の生活はタバコを片手にヨーグルト(多分ダノン。4つ小分けのパックになってるやつ)を食べながら(この姿がなぜかサマになっている)アダルトDVDを見るだけ、というところに、人生に何も目的がない様子が見てとれ、なんとも悲哀を感じさせる。

この男が、隣人の仕事仲間と一緒に仕事(といってもチンピラ的な汚れ仕事)をしていたら、ハプニングが起こり仲間が目の前で殺され、自分も死んだはずが手に入れていた力のおかげで生き残ってしまう。その罪悪感からか、殺された仲間の娘を失敗した仕事の依頼人たちから助けることになる。この娘は精神が壊れて「鋼鉄ジーグ」の世界に逃避してしまっているのだが、そんな彼女を匿いながら、この依頼人たちと戦うことになる。

スーパーパワーを手に入れるのが放射性物質を全身に浴びたから、と、その前提はよくあるものなのに、マーベルコミックやDCコミックのような話ではない。ただ、現実にスーパーパワーを手に入れた人が本当にいたとしたら、こういうふうになるんじゃないかというリアリティがある。なにせ、パワーに気づいた後に大金を手に入れた主人公がやったことは、ヨーグルトを大量買いしてDVDを大型プロジェクターでみることなのだ。質的変化ではなく量的変化しかできないところにもまたリアリティを感じる。

この主人公が初めはヒロインに巻き込まれつつ(というかその色っぽさにのめり込みつつ)、やがて彼女のことを本当に愛おしく思うようになり、彼女の求める「鋼鉄ジーグ」になろうとする過程の描き方が良い。引き込まれる。
この子がすごい美人じゃないんだけどエロ可愛くて、どちらかと言えばブス可愛い。「子」とか書いてるけど、20代前半ぐらいの設定だと思う(でも演じてる人調べたらこの時すでに30歳だった。女優!)。

生きる意味もなく、ただ漫然と人生を送っていた男が、彼女と出会い(そして愛し)生きる意味を見つけた後の展開は、胸熱で感動的だし応援したくなる。

また、敵役(これまたマフィアの大ボスではなく、その世界では認められていない小物なのが悲哀を感じさせる)がとにかくクズすぎて、心底イライラする。憎まれっ子世に憚るの文字通り、いつまでもしつこいところもいい。この配置がとてもおもしろい。

そして伏線をきちんと回収する良い脚本も隙がない。僕はイタリア映画をそんなに見ていないので、これがイタリア映画っぽい、とかはわからない。でも、ヨーロッパ映画らしいジメッとした空気が漂うし、サンタンジェロ城のそばを疾走する映像は美しい。人生を考えさせられる映画。とても好きなタイプの映画だった。

エンドロールが終わった後も、彼は人々の平和のために戦い続けるのだろう。

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