演奏会『クララ・シューマンと仲間たち』

練馬区演奏家協会コンサート『クララ・シューマンと仲間たち』に行ってきた(@練馬文化センター 小ホール)。

ヴァイオリンの西谷国登さん、チェロの毛利巨塵さん、ピアノの坂田麻里さんの3人によるユニット「石神井の森トリオ」の演奏会だ。

そのタイトルにあるように、シューマンの妻であり、ピアニスト、作曲家としても知られるクララを中心に、交友のあった音楽家や女流音楽家の曲がラインナップされるというコンセプトの演奏会だった。
その趣向を凝らしたコンセプトの影響か、途中の曲紹介をそれぞれがブラームス(西谷さん)、ロベルト・シューマン(毛利さん)、クララ・シューマン(坂田さん)に扮して、寸劇風に行うという試みも。
普段、クラシックを聴き慣れないお客様もいただろう中で、堅苦しさを取り除くようで、面白い試みだったと思う。

1曲目はブラームスの「ハンガリー舞曲 第6番」。
軽快でノリが良い曲が最初にくることで、こちらの気持ちもグッと前向きになる。

次のシューベルトの「セレナーデ」は、冒頭の有名な部分しか知らなかったけれど(我ながら不勉強)、人生の喜怒哀楽を感じられる素敵な曲だった。

3曲目の「F.A.Eソナタ」は、すでに西谷さんの“持ち曲”と言えるほどサマになっているが、今まで聴いた彼の演奏の中で、一番、そのモチーフである「自由だが孤独に(Frai aber einsam)」を表現している演奏のように感じた。

4曲目の「無言歌 ニ長調 op.109」。
フェリックス・メンデルスゾーンによる曲だが、毛利さんならぬ“ロベルト”が言うには、「無言歌」という名称は、姉であるファニー・メンデルスゾーンが考案したものらしい。
坂田さんのピアノと息のあったチェロの音色は、老練な滋味深い味わいでとても魅力があった。

前半最後は、今日の主役であるクララ・シューマン作曲の「ピアノ・トリオ ト短調 op.17」。
メランコリックな出だしで始まり、短編映画を観ているかのような展開の第1楽章のドラマティックさに、思わず楽章終わりで拍手をしてしまう。
4楽章の曲だったが、楽章をつらぬくヒロイックな印象が心に残った。

休憩をはさんで、第2部は、坂田さん演奏によるピアノ曲が3曲続く。
まずは、バダジェフスカの「乙女の祈り」。
耳馴染みのある曲だが、生演奏で聴くと、より楽しいのがわかる。同じようなメロディーが少しずつ変化をつけて続いていくので、それを追いかけるのも面白い。

そして短い曲であるシマノフスカの「ノクターン 変ロ長調」をはさんで、ショパンの「ノクターン 嬰ハ短調 遺作」が演奏された。
美しい旋律に、ときおり陰がさすようなメロディラインと、その技巧に、これぞ「ピアノ曲」といった印象を受ける。生で聴けて良かったと思える曲。

そして最後は、ファニー・メンデルスゾーン作曲の「ピアノ・トリオ ニ短調 op.11」が演奏される。
ドラマティックな第1楽章、女性としての優しさや慎ましさ(あるいはそれは生きるための方便だったかもしれないが)を感じる第2楽章、第3楽章でロマンティックになり、最後にガツンとくるような第4楽章といった、聴き応えのある構成の曲。
ぜひ、もう一度聴きたくなるような演奏だった。

アンコールは、シューマンの「トロイメライ」で(最後までロベルトを演じていた毛利さんが素敵だった)、懐かしいような落ち着いた雰囲気を作って、この演奏会が終わった。

さて、この演奏会、内容の濃さはもちろんのこと、その聴衆の多さがとても印象に残った。
約600席がほとんど埋まるほどの客数に「クラシックの生演奏を聴きたいという人がこんなにたくさんいるんだな」と改めて思った。
仕事柄、僕は一般の人よりは生演奏を聴く機会に恵まれているが、それがいかに貴重な経験であるかを痛感した出来事。

そして、今回、この演奏会に来た人たちが、生演奏の楽しさに触れ、また足を運ぶことになったら、それはとても嬉しいことであるし、きっとそうさせてくれるだろう演奏をしてくださったお三方を、いち音楽業に携わる者として(そしていち音楽ファンとして)心から尊敬している。

また、こういったコンセプチュアルな演奏会に行ってみたいなと思う。

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