バイブレーション

昔好きだった人を帰宅する電車内で見かけた。

2回ほど告白をしたことがあって、2回目に至ってはけっこう大胆な告白をしたけれど上手くいかなかった関係。それでも、仕事仲間として今でも仲良くできているのだから、それはそれで良い関係なのかもしれない。
彼女の家は、僕の路線とは違うはずだけど、いろいろと“ある”人だ。今の相手は僕と同じ沿線住まいなのだろう。

最寄り駅のひとつ手前が乗った電車の終点だった。
降りて次の電車を待つ。ホームでもう一度彼女を見かけたとき、さすがに声をかけようかな、と思って近づいてみると、彼女はロバート・キャンベルと一緒だった。
昨日のニュースを読んだところでは、嫉妬することではないのだけれど(嫉妬する立場にもないが)、あまりにも親密そうだったので、声を掛けるのは憚られた。

考えてみると、僕はこの駅からでも歩いて帰れるので、この駅で降りることにした。

階段を降りている最中に携帯のバイブレーションが鳴った。
スマホを取り出してみると、僕のではない。まさか会社のPHSを持ってきてしまったか、とカバンを探してみるがなかった。どうやら僕の携帯が鳴っているわけではなさそうだ。

だが、ここで思い出したのは仕事のこと。スニーカー売り場の人から伝言を受けて、帰る前に“必ず”折り返し連絡をすると言いながら、忘れて帰ってきてしまったのだ。仕方がないので職場に戻ることにする。
バイブレーションの音がまだする。いったい誰の携帯だ。

その仕事は僕の担当ではないのだけれど、スニーカー売り場の人は僕を指名して電話をかけてきていた。なので僕は本当の担当者に伝言をして、指示を受け、その結果をスニーカー売り場に返事しなきゃならない。実は僕が電話を受けたときに、担当者は別件でブチ切れていて、声を掛けるのが憚られて後回しにしてしまったのだ。それがこのザマである。

赤塚不二夫のことを描いた映画を、週末にうちの会社で上映するのでスニーカー売り場の人が見に行きたいが席を用意してもらえるか。3,000円でいいか。そういう話だった。
担当の人いわく、それはプラチナチケットで本来なら30,000円必要らしいのだけれど、まあインナー価格で今回はそれでいい、という答えだった。彼はさきほどブチ切れていたのとはうってかわってにこやかに言った。

なりゆきで映画上映の準備を手伝うことになり、スタッフの人に「すいませんねー」とヘラヘラした声で励まされながら、もくもくとパイプ椅子を運ぶ。
バイブレーションはまだ鳴り続けている。

 

と、ここで目が覚めた。

覚めた直後は、夢なのか現実なのかわからない状態。
気がつくと目覚ましにしていたスマホのアラームがバイブレーションを伴って鳴っている。これがずっと続いていたのだと納得する。

この夢が何か意味を持つとは思わない。
でも夢の中でも仕事のことだなんてガッカリだ。
ある意味仕事熱心で、ある意味ワーカホリックというところか。

今夜は仕事以外の夢を、できれば楽しい奴を見たい。

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