アマチュアオケの先にあるもの

石神井インターナショナルオーケストラの第4回定期演奏会に行ってきた。

友人の、ヴァイオリニストで指揮者の西谷国登さんが音楽監督をしている関係で、団員の方々とも親交があり、何かとご縁のある「石オケ」だけれど、客席から演奏をじっくりと聴いたのは、第1回の演奏会以来だった。

メンバーのほとんどが知り合いなので、いわゆる「友達」の演奏会を聴きに行く、という体ではあったのだけれど、その演奏たるや西谷さん(そしてインストラクターの先生方)のお力か、アマチュアオケといえども、きちんと「個性のある」演奏を聴かせる内容だった。

あとで聞いた話だが、西谷さんは第4回となるこの演奏会を「レベルアップの場」として位置づけていたらしい。
その証拠となる楽曲が2曲目のメンデルスゾーン 弦楽八重奏 変ホ長調 作品20だろう。
本来4パートに別れるところを倍の8パートで演奏するこの曲(コントラバスも入るので実質9パート)。同じ譜面で弾くメンバーが少なくなるし、別の音が多く入ってくる分、個人の力量(責任と言い換えても良いかも)が問われる。一歩間違ると、知り合いじゃなければ「聴くに耐えない」内容になる恐れもあるのだ。

だけれど、この日の演奏は、見事にそんなことを微塵も感じさせない、まとまりのある、そして八重奏ならではの広がりのある演奏をしてみせた。僕は、これをアマチュアオケという立場に甘んじない、市民オケとしての矜持に感じた。

(これは僕が個人的に知っているからだが、)石オケのメンバーひとりひとりはすごく個性的だ。逆説的に言えば、どのオケもきっとひとりひとりは個性的に違いない。ただ、それを「オーケストラとして演奏する」という共同作業に載せたときに、時にはバラバラな個性を発揮したり、ときには窮屈な演奏にまとまったりする。石オケの演奏は、それぞれの個性を感じさせながらも西谷さんの指揮、そして各パートの結束力でそれをひとつの「楽曲」として昇華してみせた。それは決して「知り合いだから」で納得させる演奏ではなく、市民オケとして十分に聴衆を満足させられる演奏だった。

昔の話だが、実業団のアメリカンフットボールの大会を観戦したことがある。それはふとしたきっかけで、そのチーム(ちなみにアサヒ飲料チャレンジャーズ)のファンになったからなのだが、実業団の応援は、ほとんどが、チームメンバーの家族、友人、関係者で、僕はどちらかと言えばちょっとしたきっかけで観戦した人間だったと思う。でも、その試合はとても楽しかったし、充実した時間だった。

石オケの演奏も、きっとそういう、ちょっとしたきっかけで鑑賞した人に充実した時間を与えられたと思う。いや、もちろん全ての演奏がパーフェクトとは言えないだろうし、まだまだできてない部分もあるだろう。
だが、今後、そういういわゆる「いちげんさん」でも楽しめるオケになる可能性を十二分に感じさせる演奏会だった
(もちろん、それは、1曲目のモーツァルト ディベルティメントK.138を、指揮台につくやいなやスタートさせる演出や、八重奏の前に、曲の聴きどころ解説をするという演出が一役買ったという点も記述しておく)。

弦楽八重奏という、テクニカルな(ある意味トリッキーな)演目をこなしたことで、僕はこのオーケストラはフェイズ1を終えたと思っている。
来年はフェイズ2に入り、また新たな挑戦と、より石神井インターナショナルオーケストラならではの個性を発揮した演奏を聴けるのではないか。
そう期待して、今後も応援していきたい。

舞台『リトル・ヴォイス』に期待

ご縁があって、舞台『リトル・ヴォイス』の製作発表会に行ってきた。

『リトル・ヴォイス』と言えば、映画版を公開当時劇場で観た。
ハリウッド大作ではなく、イギリス映画だったせいかロードショーをしておらず、銀座だか渋谷まで観に行った覚えがある。

しかしながら、映画の内容はほとんど覚えていない。
というのも、本編が始まる前にユアン・マクレガー主演の5分程度のショートムービー『Desserts』が併映されて、これがまさかのホラー。
ミュージカルドラマを観にきたはずなのに、ホラー映画を見せられるという展開で、本編の印象が完全に消されている(で、逆に『Desserts』についてはよく覚えている)。
当時を考えると「ユアン・マクレガー人気」のおかげで、この映画も話題になった部分が大きいから、ファンサービスとして併映したのだろうけど完全に裏目だったと思う。

さて、それでも「面白かった」という漠然な感想を持っているこの映画を日本で舞台化するという。主演は大原櫻子さん。
制作発表会の中で、役の“リトル・ヴォイス(LV)”として歌唱を行うシーンがあったのだが、彼女が“役”として登場した時に、映画で観たシーンが蘇ってきた。

思い返してみれば、この『リトル・ヴォイス』という作品は、普段は誰ともコミュニケーションをとれない少女が、レコードを聴くうちにその往年の名歌手の見事な歌マネができるようになって、その才能を見出される、といった内容だった。

引きこもりの彼女がステージにたった途端に、スターが乗り移ったように歌い始める。

その彼女が醸し出す、不安と歌うことの幸せが入り混じった感覚が、大原櫻子の演じるLVから強く感じられた。

しかもこの役の難しいところは、歌をしっかり聴かせながらも、歌マネとしても成立させなければならないということ。歌手としては、自分の個性とマネのバランスをとらなければならないのだが、今日、お披露目だったにしては見事なパフォーマンスだった。本番までに磨きをかければ、大原櫻子流の「リトル・ヴォイス像」をつくれると思う。

共演者の方々も、本当に面白い舞台をつくろうという気概が強く感じられた製作発表会だった。期待して観にいこうと思う。

 

舞台『リトル・ヴォイス』は、5/15〜28 天王洲銀河劇場にて上演。
その後、富山・北九州での上演もあり。