ヴァイオリニストの西谷国登さんの恩師である、アメリカ ポートランド州立大学教授 キャロル・シンデル氏の来日リサイタル。
西谷さんの師匠が、どんな演奏をするのか楽しみにして聴いてきた。
※2017年9月18日 大泉学園ゆめりあホール
西谷さんは、クラシックのルールを忠実に守りながらも、その中で最大限自分なりの表現をしようとする演奏アプローチをする方だと(勝手に)思っているのだが、その演奏法の根本を作った方はどんな演奏するのか、とても楽しみだった。
オープニングは「ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調」
最初に出す音はどういうものなのか。
その一音目から、こちらは待ち構えてしまうという緊張感を持っていたのだけれど、そんな僕の「理屈」がふっとんでしまうような素晴らしい演奏が始まる。
軽く弾いているのにしっかりと曲の表現が豊か。無駄がなく、居合や合気道の達人の技をみている感じ。
続いては、西谷さんと共演の「バッハの2つのヴァイオリンのための協奏曲」。
西谷さんは両ヴァイオリンとピアノの指揮の役目もあったのか、いつもより弾き方が大きく、それもあってその姿は、動の西谷さんと静のキャロルさんという対比だったが、曲の表現の仕方、演奏へのアプローチは流石に師弟であると確信させられるほど、息があっていた。
キャロル先生の指導を受けて15年。その年月を感じられた共演。
休憩をはさみ、最後の曲はフランクの「ヴァイオリンソナタ イ長調」。
西谷さんが昨年、自身のリサイタルで演奏した曲であり、「Great3 Violin Sonatas」というCDにも収録されている楽曲。
なので、弟子の演奏に対するアンサーに思えて感慨深い。それでも決して「お手本」といった演奏ではなく、軸は同じながらキャロル氏としての曲へのアプローチを実感した演奏。聴いているこちらも、曲への理解が深まる。
そして全ての曲で伴奏を担当した轟絵美さんのピアノも緩急のつけ方が素晴らしく、前にでるところはしっかりと出て現役ソロピアニストであることを印象づけつつも、基本的にはしっかり後ろで支える、というバランサーに徹して演奏をサポートしていた。
しかし、この演奏をわずか前売り2,000円で聴けてしまうというのは、とんでもない贅沢だ。
キャロル先生の年齢や来日の頻度を考えると、この師弟が日本で共演するのはもう二度とないかもしれない(少なくともこの値段では!)。
それを練馬という地元で、170席という規模のホールで、と思うと、凄い場面に立ち会ったなと感慨深い。
そして、芸術というものは(その根底において)継承されていくものだということを改めて実感した演奏会だった。
西谷さんがMCで「(キャロル先生の師)ヤッシャ・ハイフェッツ先生の演奏がキャロル先生、私、そして私の弟子と4世代にわたって続いている」とおっしゃっていたが、それを言葉でなく演奏でわからせられたというのがなによりも感動した。
西谷先生が自分の演奏においてはキャロル先生から学んだものを軸として自分らしさを追求しながらも、弟子に繋いでいくものはどちらかと言えば、その軸なのだと思う。
「軸はこうだよ。そして私はそれに加えてこういう考え方を取り入れている。君はどうするの?」ということを繋いでいる。きっとそれは、キャロル先生から同じように指導を受けたからだろうし、ともすれば、軸をなくして自分の弾き方“だけ”を継承してしまう(そしてそれは大概は長く継承されない)師匠がいる中で、こういう師匠をもった弟子は幸せなことだと思う。
自分の師匠の指導の中に、その師匠、さらには大師匠(しかもハイフェッツ!)までを感じることができるのだから。
余談だけれど、キャロル氏が演奏前に調弦しない(Aの音をピアノと合わせない)のはなんでだろう。それでも音はピタリと合う。
魔法?