ずいぶん前に職場の読書仲間から借りて積読していた本(こう書くと酷い話だよね。しかもサイン本)。
読書熱が出てきた今ようやく読んだ。読み始めたら、先がどんどん気になってあっという間に読めた。
5人の犯罪者が、並外れた観察眼と会話能力で追い詰めてくる警察官狩野雷太と対峙する、という形のミステリー小説。倒叙ミステリーの部類に入るんだろうか。
「あなたは5回、必ずだまされる」というキャッチコピーが帯にあって、確かに騙されはしたけれど、さほど「アッと驚く」展開はなかった(同作者の『女王はかえらない』を読んでいる者としてはなおさら)。でも、それぞれの登場人物の心の揺れ動きが細かく描かれていて、とても面白く読んだ。
表題作で日本推理作家協会賞(短編部門)受賞の「偽りの春」も詐欺師側の悲哀が共感を生んで良かったけれど、個人的には1話目の「鎖された春」と最終話「サロメの遺言」が特に面白かった。前者は犯罪に導かれてしまった語り手に、そして後者は複雑な人間関係の果ての行為とその結末に。
主人公狩野雷太に見つかってしまった犯人たちの心の揺れ動きが面白い。そして狩野は厄介すぎて、ああもうこの人に見つかったらおしまいだ、と思える展開が面白い。狩野と犯人のやりとりをまだ読みたい、と思ったら続編(『朝と夕の犯罪』)もあるので、これは必ず読む。
あと、ドラマ化された場合に狩野を誰が演じるか、と考えるのが面白かった。
癖があって、いつも笑顔だけどその笑顔すら怖い、という「得体の知れなさ」という点でいろいろ考えて、最初に浮かんだのは濱田岳だけど年齢がまだ若い。次に浮かんだ矢本悠馬だともっと若いし、最近見た「気持ち悪い俳優No.1」(褒めてます)の竜星涼はさらに若い(10年後に演じてほしいとも思う)。井浦新だとちょっとトーンが重過ぎるかなーと、思っているうちに、ああ高橋一生でいいじゃん(いいじゃん、って言い方も随分アレだな)と落ち着いた。今すぐドラマ化するなら高橋一生でお願いします(10年後なら竜星涼で)。
みっちゃんは、映画『そしてバトンは渡された』のガタイがよくて真面目なイメージが残っている水上恒司がすぐに浮かんだ(本当はもっと大柄なキャラなんだろうけど)。
さほどミステリー通ではない僕には、ハッとするトリックもあったし、叙述の妙も楽しかったけれど、犯人たちの人間ドラマ(人情ドラマと言えるかも)と、全てを見通す狩野という天才的な探偵に出会ってしまった時の心の移り変わりが一番の楽しみだと思う。
狩野と対峙する際のハラハラドキドキを犯人側になって体験できる。
ちょっと騙されつつも、人間の機微に触れる楽しみを得るのにおすすめな小説。