オルケーストル・ウリープカ 〜1回限りのオーケストラ〜

オルケーストル・ウリープカの演奏会に行ってきた。

語感からわかる人もいるだろうが、演奏会の曲目はすべてロシア(ソビエト)の作曲家の曲。ロシア専門と言われれば、ショスタコーヴィチの曲を専門に演奏する オーケストラ・ダスビダーニャ を連想するが、ウリープカは今回1度限りのオーケストラなのである。
なんでも「ヴァイオリニスト西谷国登氏とともにハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲を演奏するために結成された」そうで、ただその1曲を演奏するがために生まれた、贅沢な、ともすれば酔狂なオーケストラだ。

他にもムソルグスキーのオペラ「ホヴァーンシチナ」から『モスクワ川の夜明け』、ラフマニノフの交響曲第2番を演奏したが、やはりメインは西谷さんがソリストを務めるヴァイオリン協奏曲 ニ短調だ。

西谷さんとは仕事上の付き合いだけでなく、友人を飛び越えて、“Brother”というか“バディ”という感じの関係を築かせていただいているが、その演奏を生で聴く機会は意外と少ない(指揮はけっこう見ているけれど)。
しかもソリストとしての演奏を聴くのは初めてで、オーケストラとともに彼の演奏を聴くことをとても楽しみにしていた。
そして実際、ヴァイオリニスト 西谷国登の凄まじい力量を、あらためて見せつけられた感じがする。

西谷さんの最も凄いところは、曲の世界をきちんと表現しながら、その超絶技巧ぶりも観客に聴かせられるところだと思っている。並の演奏家はもちろん、上手いとされる演奏家でも、高い技術を必要とするいわゆる「難所」にかかったときには、一旦曲の世界から離れてしまう(聴衆を世界から離してしまう)ものだが、西谷さんの演奏は技術の上手さを感じさせたまま、世界につなぎとめてくれる。そしてやはり指導者としての一面を見せるのか、その技術の中には「これはこうやって弾くんだよ」というメッセージも感じられる(アンコールのクライスラー 『レチタティーヴォとスケルツォ』で特にそれを感じた)。
ソリストとしても持ち味を出しつつ、さらにオーケストラをきちんと引っ張っていく「陰の指揮者」ぶりを発揮する。演奏の中で、これだけのことをやってもらえたおかげで、存分に曲に浸ることができた。

オーケストラ自体は、このためだけに集まったとは思えない、まとまりのある演奏を披露した。ヨーロッパ本流とは違うロシアの(というか東欧の)曲らしい“暗さ”と“重さ”(そしてときたま現れる“つきぬけた明るさ”)をよく表現していたし、とくに1時間も続く交響曲第2番を弾ききった楽団員と指揮の三浦領哉さんのスタミナと精神力には敬意を表したい。
このオケならではの個性を発揮するまでは至らなかったが、結成してからの期間的なものを考えるとそれは当然といえば当然のこと。(もしあるとしたら、だけれど)第2回への楽しみにとっておこう。

西谷さんの演奏をオケと一緒に聴けただけでも、値段以上の価値は十二分にあった演奏会だった。

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